思うままに


by abdulmajid0922
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

グルーシェンカ のたとえ話 の巻

『カラマーゾフの兄弟』より

第七編 アリョーシャ

三 ねぎ

.....これはわたしがまだ子供だった頃に、いまうちで台所の仕事をしているうちのマトリョーナから聞いた話なんだけどね、それはこういう話なの。

『昔々ある所にそれこそひどく性悪な女がいて、それが死んだのよ。

そしてその女は生きているあいだになにひとついいことをしなかったものだから、鬼どもにつかまって、火の海へ投げこまれてしまったわけなの。

その女の守護天使は、なにかその女のしたよい行ないを思い出して神さまに言上できないものだろうかと、じっと立って考えているうちに、ふと思いだして、神さまにこう申しあげたんだって。

『あの女は野菜畑で葱を一本引きぬいて、女乞食に恵んでやったことがあります』
ってね。

すると、
『お前はその例の葱を取って、海のなかにいるその女にさしのべてやり、それにつかまらせて引きあげてやるがよい、そしてその女が海から引きあげられたら、天国へ行かせるがよい。
が、もし葱が切れてしまったら、女はいまいる所にそのままのこらなければならんぞ』
という神さまのご返事があったの。

そこで天使はその女のところヘ駆けつけて、葱をさしのべて、
『さあ、お前、これにつかまりなさい、引きあげてやるから』
とこう言ったんだって。

そして女をそろそろ引きあげにかかって、いよいよもうすっかり引っぱりあげられそうになったとき、海にいたほかの罪びとどもが、その女が引きあげられようとしているのを見て、みんなしてその女にしがみついて自分たちもいっしょに引きあげてもらおうとしたんだって。

ところが、その女はひどく性悪な女だったものだから、
『引っぱりあげてもらっているのはわたしで、お前たちじゃないよ、これはわたしの葱で、お前たちのじゃないじゃないか』
と言って、みんなを両足で蹴落としにかかったの。

すると、そう言ったとたんに葱がぷつりと切れて、その女は海へ落ちてしまい、いまだにそこで燃えているんだってさ。

そして天使は泣いてその場を立ち去ったんだって』

これがそのたとえ話でね、アリョーシャ、わたしこれをそらで覚えているのよ、だってわたしがその性悪な女なんだもの。.,,,.



(豪華版 世界文学全集ー14
ドストエフスキイ『カラマーゾフ兄弟』1976年 講談社 北垣信行訳より)

e0322201_10341953.jpg

画像 : 八重咲きのライラック
"クラサヴィトゥサ モスクヴィ"
Krasavitsa Moskvy
(モスクワの美しさ)
作出者:レオニード・コレスニコフ
Leonid Alekseevich Kolesnikov

五月の札幌大通公園にて


夏目漱石と縁があった釈宗演と長きにわたり親交のあった、ポール・ケーラス
Paul Carus(1852-1919)。

彼が書いた1894年(明治27年) "Karma : a story of Early Buddhism" を原作として、

1898年に出版された鈴木大拙訳「因果の小車」の中からTHE SPIDER WEB「蜘蛛の糸」を元に、

1918年(大正7年) 『赤い鳥』創刊号に発表された小説、鈴木三重吉に言わせると「創作的再話」となる、
芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の物語は、

『カラマーゾフの兄弟』でドストエフスキーがロシアの民話を題材として、グルーシェンカが三男アリョーシャに聞かせる「ねぎ」のたとえ話と内容がほぼ同じです。

『蜘蛛の糸』の中で、地獄の底でうごめいている犍陀多が「ねぎ」の中の性悪女です。


"Karma : a story of Early Buddhism" はTHE OPEN COURTに発表された直後、
1894年(明治27年)レオ・トルストイ伯爵がロシア語に翻訳し、国の人々に推薦した。

と、説明されています。
(Amazon.com:“Karma : a story of Early Buddhism" eBook Paul Carus )

この仏教小話は『カルマ』という題でトルストイ全集に収録されています。


芥川龍之介『蜘蛛の糸』の発表は1918年(大正7年)です。

1915年(大正4年)に
森田草平訳『カラマーゾフの兄弟』はすでに発刊されていました。


グルーシェンカのたとえ話は、洋の東西を問わず、宗教をも超えて、文学者たちによって民衆に流布せんがために継承されていたのです。


[PR]
by abdulmajid0922 | 2017-06-11 10:30 | Comments(0)