思うままに


by abdulmajid0922
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フョードル の 鏡を取ってくれ の巻

スコトプリゴーニエフスクの自宅で
長男ドミートリイの殴打を受けた
父親フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフは、三男アリョーシャに言った「鏡を取ってくれ」......

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』北垣信行訳の文章から、
三島由紀夫『鏡子の家』に登場する男も母親に同じことを言っていたと記憶が瞬時に蘇り、調べた。

すると、シェイクスピアまで遡ってしまった。

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画像 : 1947年ロシアで作出された、八重咲きのライラック
“クラサヴィトゥサ・モスクヴィ”(モスクワの美しさ)
Krasavitsa Moskvy (Beauty of Moscow)

作出者:Leonid Alekseevich Kolesnikov

五月の 札幌市中央区大通公園西12丁目 にて



シェイクスピア

『リチャード二世』1595年

第四幕

第一場 ロンドン、ウェストミンスター大会堂

王リチャード:
.....もうお前の陛下ではない、傲慢な無礼者め、誰の陛下でもない.....

仮にまだ私の言葉がイングランドで通用するなら、すぐに鏡を持ってこいと命じさせよう、私がどんな顔をしているか映してみたい、王の威厳が破産した顔を。

ボリングブルック:
誰か、鏡を取ってこい。
......

王リチャード:
(従者が鏡を持って登場)

その鏡をよこせ、中身を読んでみよう。
(鏡を受け取る)

まだ深い皺はないのか? 悲しみが私のこの顔に無数の打撃を加えたというのに、深い皺はつけなかったのか?
ああ、おべっか使いの鏡め、
私が栄華を極めていたころの臣下たちと同じだ、お前は私を騙している。

これが毎日宮殿の屋根の下に、一万もの人間を抱えていた顔か?
これが、太陽のように仰ぎ見る者をまぶしがらせた鏡か?
この顔に輝くのは脆い栄光ー
この顔も栄光のように脆い!
(鏡を床に叩きつけ、粉々にする)
な、ご覧の通りだ、粉々に砕けてしまった。

聞け、沈黙の王、このごっこ遊びの教訓は、悲しみが私の顔を砕くのはあっという間ということだ。

ボリングブルック:
あなたの悲しみの影があなたの顔の影を砕いたのだ。.....
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画像:
(リチャード二世 シェイクスピア全集26
松岡和子訳 ちくま文庫)



『ジュリアス・シーザー』1599年

第一幕 第二場

キャシアス:
だからこそ、だれしもが嘆いているのだ。ブルータスには、そういう鏡がないことを。

鏡に映して、君の隠れた真価を、君自身の目に明らかに見せる影がないことを。.....

ブルータス:
どんな危険に私を引き込もうというのだ、キャシアス。

私自身の心の裡を覗き込み、ありもしないものを探し出せとでもいうつもりか。

キャシアス:
だからこそ、ブルータスよく聞いてくれと言っているのだ。

君もたった今、認めたとおり 、自身の姿は、自分自身の目には見えぬ、鏡に映して見るしかない。

だから、おれが、君の、鏡になろう。

君自身もまだ知らぬ、君自身の心の奥を、君自身の目に、ありのままに見せてやろう。..,,..

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画像:
(ジュリアス・シーザー シェイクスピア
安西徹雄訳 光文社古典新訳文庫)



『リア王』1606年

五幕三場

リア、コーディリアの亡骸を両腕に抱いて登場。
後を追って、先程の兵士。


リア:
哭け。哭け。哭け!貴様ら、石か。

声はないのか。目はないのか。声があるなら、なぜ哭かぬ、天空も破れて崩れ落ちるまで。

死んでしもうた。

死んでしもうた。

(亡骸を降ろし)生きておる者と、死んだ者の区別くらい、わしにもつく。死んでおる。

土くされながら、死んで、動かぬ。

鏡をくれ。

息で曇れば、もしもそうなら、生きておるのだ。......

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画像:
(リア王 シェイクスピア 安西徹雄訳
光文社古典新訳文庫)



ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』1881年

長男ドミートリイに殴打され、顔が血まみれになった父親フョードルは一時間ほどして、ふと目をあけるとアリョーシャを見つめて.....

第一部

第三編 淫蕩な人たち

九 淫蕩な人たち

......「鏡を取ってくれ、ほら、そこに立ててあるだろう、取ってくれ」

アリョーシャは、箪笥の上に立ててあった小さな折りたたみ式の丸鏡を取ってやった。

老人は鏡をのぞいた。

鼻が相当ひどく腫れあがり、額の、左の眉の上にかなり目立つ紫色のあざができていた。......

(豪華版 世界文学全集 14
ドストエフスキイ『カラマーゾフ兄弟』
北垣信行訳 講談社 1976)



三島由紀夫『鏡子の家』1959年

母親の経営する喫茶店アカシヤ
で、いつも母親の借金の催促にくる愚連隊の男に顔を散々殴られた舟木収は.....

第二部

第六章

....そこでは、床にひざまづいて、顔を珈琲に隈取られたまま、母親が倒れた息子の足に抱きついて泣いてゐた。

しかし息子が一等先に母親に頼んだのは、鏡を持つてきてくれ、といふことであった。

(決定版 三島由紀夫全集 7 新潮社)


1985年の映画『Mishima: A Life In Four Chapters』
監督:ポール・シュレイダー

沢田研二演ずる舟木収は、男に殴られて床に倒れたまま身体をくねらせ、あらかじめ携帯していた鏡を無言でズボンの後ろポケットから取り出して、自分の傷つけられた顔を確認した。

三島由紀夫の原作どおり、『鏡子の家』の「鏡」の描写は、ポール・シュレイダーにとり重要な場面であったということです。


シェイクスピアの考案した小道具「鏡」、「鏡を取ってくれ」の台詞が時空を超えて、少なくともロシア、日本の文学者によって継承されていました。





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by abdulmajid0922 | 2017-06-16 15:20 | Comments(0)