高麗人がこよなく愛した木槿を随所に際立たせた本書。
十九歳のとき、「蛮族の王の奴婢になりたいか」と利休が恋した娘に訊くのであるが、日本を「蛮族」と称することは読者からいろいろ意見が湧き出てくるところである。
聚楽第 利休屋敷の一畳半の茶室の軸も花もない床の間に木槿の一枝をお供えして、十九歳で出逢った忘れじの高麗の高貴な女を偲びつつ自害した七十歳の利休。
直感でわかる、妻宗恩の腹は煮えくりかえるのである。
......聚楽第、摘星楼の八畳の間。
金箔貼りの床の間。
床には、かきつばたの花。
堺の今井宗薫のしつらえは尾形光琳の《燕子花図》屏風を髣髴するのである。
伝統的な雅の茶の湯と侘び茶の茶の湯の世界を堪能できることを期待して楽しみながら本の頁をめくっていくと現れた細川忠興と妻玉子との性描写。
400頁を読了させるには、性描写を入れないと本は売れないとの出版社側の意向が反映されているのであろう。
...,,ガラシャのすがりついた爪が、忠興の肩にくいこんだ。
というくだりでは、既に、
三島由紀夫が二十五歳で書いた『愛の渇き』を思い出す。
秋祭り、狂おしい揉み合いの半裸の男たちの中に入り込み、惚れた男の深い底知れない海のような背中、そこへ身を投げたいとねがった女が深く爪を立てる描写があります。
・西ヲ東トの章では、
つい言わずもがなのことを口にしてしまう山上宗二 。
利休に口ごたえをする山上宗二が
滑稽でもあり、愛おしくもあり反面教師として、処世術が書かれています。
・名物狩りの章では、
湯気のなかで抱き合えば、閨とはちがってまた興が高まるとおそらく著者の嗜好を挟み、忠興と玉子とにつづき、利休と宗恩との性描写を描き読者サービスを展開しています。
♪利休鼠の雨が降る....
鼠色の道服を着る利休が登場し、
本書ではいくつも、いくつも新しい発見があり、読書はやはり楽しいなぁと思う次第です。