桃色の雲 の巻
2014年 09月 07日
江戸川乱歩作品
小説『孤島の鬼』
『朝日』博文館
1929年昭和4年1月〜
1930年昭和5年2月までの14回に
亘って掲載されました。
主な登場人物
箕浦金之助:W実業学校卒
丸の内のビジネスマン
白皙の美青年
会社の同僚の木崎初代
諸戸道雄:医科大学卒・医学研究者
美青年
女嫌い
箕浦君と初代の恋物語から始まります。
森鷗外の小説「雁」より
参
岡田は虞初新誌が大好きで、
中にも大鉄椎伝(だいてっついでん)
は全文を諳誦(あんしょう)することが出来る程であった。
同じ虞初新誌の中(うち)に、
今一つ岡田の好きな文章がある。
それは小青伝であった。
その伝に書いてある女、.....
.....
女と云うものは岡田のためには、
只美しい物、愛すべき物であって、どんな境遇にも安んじて、
その美しさ、愛らしさを護持していなくてはならぬように感ぜられた。......,
森鷗外の小説「ヰタ・セクスアリス」より
金井湛(しずか)君は哲学が職業である。
......
そのうちに夏目金之助君が小説を書き出した。
金井君は非常な興味を以って読んだ。.....
*
十四になった。
.....
僕は裔一(えいいち)に借りて
晴雪楼詩鈔(ししょう)を読む。
本朝虞初新誌(ほんちょうぐしょしんし)を読む。
*
十五になった。
.....
僕はVictor Hugo の Notre Dame を
読んだとき、Emeraudeとかいう宝石のような名の附いた小娘の事を書いてあるのを見て.....
「何の子だか知らないが、非道い目に合わせているなあ」
「もっと非道いのは支那人だろう。赤子を四角な箱に入れて四角に太らせて見せ物にしたという話があるが、そんな事もし兼ねない」
「どうしてそんな話を知っている」
「虞初新誌にある」
「妙なものを読んでいるなあ。
面白い小僧だ」
......
•江戸川乱歩は
ここに書かれている
「虞初新誌」に刺激を受けて
『孤島の鬼』の製作に至ったのです。
『孤島の鬼』作中
〜エドガー・アラン・ポー
「モルグ街の殺人」
〜ガストン・ルルー(オペラ座の怪人)
「黄色い部屋」
〜シャーロックホームズ
〜ポー作品に登場する名探偵
デューパン(デュパン)
〜森鷗外
原作アンデルセンの翻訳本
「即興詩人」
(作品中の 八幡の藪知らず
で引用しています。)
などが登場しファンは気が昂揚します。
『孤島の鬼』
恋人の灰
(箕浦金之助君の言葉です。)
「そうだ、
わたしのよく形容するように、
どこともしれぬ天上の
桃色の雲に
包まれて、身も魂も溶け合って
まったく一つのものになりきってしまっていた。
どんな肉親もこうまで一つに
なりきれるものではないと思うほど、
初代こそは、
生涯にたった一度めぐりあった
わたしの半身であったのだ。
その初代がいなくなってしまった。
•和歌山県 K港から言葉さえ通じ兼ねる漁師の小舟で
岩屋島へ渡り、
古井戸から地底に這入りこんでからは、
インディージョーンズの世界になり、
一気に最後の二行まで読み終えてしまうでしょう。
桃色の雲を見ると
『孤島の鬼』が思い出されます。
画像:札幌市上空の桃色の雲です。