コーエン兄弟で映画化されたら、ヒット間違いなしと映像美を空想しながら読了した。
三歳になる娘を車の中に置きっ放しにするところが複数回あり、きっと悲劇が起こる、きっと悲劇が起こると読者は著者の技巧に乗せられ、操られた。
無罪を言い渡した男に家族を狙われ、結局自分の手でその男を殺害することになった元裁判官の事件......。

飼い犬のドーベルマンを角材が折れるまで叩きつける、ソシオパス武内はログハウスの暖炉の火でバウムクーヘンを焼く。
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マントルピースのうえに一尋(ひとひろ)近い長さの丸竹が置いてある。
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専門家以外、現代人には通じずとも、
竹棒の長さの単位を敢えて「尋」としたこの一文字できらりと文学の香りを放ち、ここに著者の小説家としての矜持を見て取ることができます。
著者は今後の作品に期待できる数少ない現代小説家の一人であるといえよう。